桜蔭中学校の卒業生に学校のリアルをインタビュー

包容力に満ち溢れた温かい学園生活。 そうそうたる先生方、友人達の下で育まれたのは、『自分の言葉』を大事にする力。

聞き手:
インタビュー日:2023年12月29日
記事作成協力:カナエ塾(塾HPへ)

卒業生経歴

桜蔭中学校 → 桜蔭高等学校 → 京都大学医学部医学科2年(インタビュー時)
今回は、桜蔭学園を卒業し、京大医学部に現役合格したAさんにインタビューしました。東大合格者ランキングトップ10に入る唯一の女子校。「天才集団」と評される彼女達は何を考え、何を学び、どのような中高生活を過ごしていたのでしょうか…。 その閉ざされたベールが今、明らかになります。
熾烈な受験争いから一転、競争の無い学園生活
――まず、中学受験をしようと思ったきっかけを教えて下さい。 学区の中学では、部活の選択肢が少なかったからです。 卓球を習っていたので、卓球部のある学校に行きたいと思っていました。 ――自ら受験を希望されたのですね。続いて、桜蔭学園を選んだ理由をお聞かせ下さい。 最初は共学を志望していましたが、桜蔭の近くに住んでいたこと、文化祭や入試会場での学校の雰囲気が良かったことから、直感で桜蔭に行きたいと思い、進学しました。 ――最終的にはご自身の直感で選ばれたということですね。3校全勝とお聞きしましたが、順調な中学受験だったのでしょうか。 いいえ。むしろ受験を決意した時が小5の春だったので、完全に出遅れてしまいました。周りが復習でも私には初見の問題が多く、勉強を軌道に乗せるのが大変でしたね。今までの習い事(卓球や書道)は練習したらその分だけ努力の成果を実感しやすかったのに、受験勉強(特に算数)は伸びるまで時間が掛かり、周りよりも努力が足りないのかと落ち込むこともありました。 それでも、塾で新しいことを学ぶのは好奇心が刺激されて、とても楽しかったです。目の前の勉強を一生懸命楽しみながらやることで、基礎力を身に付けることができ、長いスランプには陥らなかったと思います。 ――楽しみながら勉強出来るなんて素敵です‼桜蔭中の入試問題は大学生でも難しい最高峰のレベルと言われますが、振り返ってみて小学生で解けた理由は何だと思いますか。 そうですね…。確かに中学の時、とある先生から「あなた達のピークは小6ね。」と言われました(笑) 今思うと、算数は全体的に奇抜な解法は求められず、どれも基礎力を試されている問題だと思います。 国語は正直に言ってかなり難しいです。ただ、読書習慣のある子どもに有利だと感じます。 算数でも国語でも問題文をよく読み、「何を聞かれているのか」に忠実に答えられれば合格に繋がると思います。 ――ありがとうございます‼それでは、桜蔭での学校生活について詳しく教えてください。トップばかりが集まる桜蔭では競争が激しく、友人関係がギスギスしているイメージがありますが、実際はどうなのでしょうか。 決してそんな事はありません。校内の中間、期末テストでは順位も出ませんし、高1と高3の外部模試を受けて初めて自分の立ち位置を知るぐらいです。勉強の出来不出来が友人からの評価に繋がりません。熾烈な受験を戦い抜き、合格した同志を互いにリスペクトしています。 ――そうなのですね。桜蔭生はどのような方が多いのでしょうか。特に印象的なエピソードはありますか? 印象的だったのは、入学式の直後、背の順を自分たちで決めるように指示された時のことです。 小学生の名残で、「私の方が高い!」「いや、私の方が!」みたいなやり取りがあるかと思っていたのですが(笑)、 実際は「私、何cmだから。」「あ、では私の後ろね。」と、 とてもスマートに決めていて、驚きました。 また、体育大会の練習も印象的です。 桜蔭は校内にグラウンドがなく、外運動をする際はひばりが丘運動場に行きます。 みんな貴重な練習時間だということを分かっているので、 全体で練習するときも集中し一発で合わせられていました。
日本伝統を肌で感じる礼法
――桜蔭の特徴として礼法が挙げられますが、実際はどのような授業でしたか。 礼法室という畳の場所でお辞儀、襖の開け方、お茶の出し方、お箸の持ち方等の様々な礼儀作法を学びます。 上座や下座を習ってからは、絶えず気になるようになり、今でも大学の教室に下座から入っています(笑) お茶をたてる等、なかなか体験したくても体験できない日本の伝統文化を学べて、とても良い経験でした。
本物に触れる副教科。 ジェンダー教育への取り組み
――それでは、他に印象的な授業があったらお聞かせ下さい。 家庭科の授業が印象的です。ミシンでエプロンやパジャマを作成したり、刺繍やかぎばり、棒針編みをしたり、ありとあらゆる裁縫をしました。どれも評定されるので手が抜けません。もちろん、調理実習もあります。「将来、あなた達がすることだから、きちんと覚えておきなさい。」と言い続けられたことをよく覚えています。 また、座学では男女格差やジェンダーについての授業がありました。女子校という特異な環境でしたが、「女性として何も臆することなく、自信を持って社会に出て欲しい‼」という先生方のメッセージだったと思います。 ――人生の幅を広げてくれる、副教科の授業ですね。桜蔭は個性豊かな先生が多いイメージがありますが、一番印象に残っている先生のエピソードは何ですか。 国語のS先生が特に印象に残っています。 とある国語の作品で登場人物が人魚に魅入るお話がありました。その作品にところどころ桜の描写があったので、なぜ桜なのか聞いてみたら、「桜、というのは一つ一つの花が見えなくて、輪郭はどこかぼんやりと捉えどころがないにも関わらず、満開になると魔性のような魅力を持つ。それでいて、一気に咲いてすぐに散ってしまう儚さのようなものも持っている。それが『人魚』のもつ捉えどころのない、しかし確かな魅力によくあっているんじゃないかな。」と仰って下さいました。その瞬間にすごく腑に落ちたというか...桜の咲き誇る情景を思い浮かべながら納得して、こんなにも的確にイメージを「ことば」にできる先生がいるのかと思い、感銘を受けました。また、S先生は古典の品詞分解を一個一個細かく見て下さり、大変お世話になりました。 ――素敵なお話をありがとうございます。
中1から高2の文化祭までは部活必須。帰宅部不可。 高2の10月から受験モードへ
――桜蔭生はずっと勉強しているイメージがありますが、帰宅部は無いのですね。 そうですね。帰宅部はありません中学入学から高2の文化祭の引退まで、部活動は必須になります。ただし、転部は可能です。中学では体育系で、高校から文化系に移動する人もいます。また、体育系はⅠとⅡに分かれており、Ⅰは週1回、Ⅱは週3回の活動になります。 私は運動部Ⅱに所属していたので、週3日の朝練と夕練がありました。みな意欲的で、毎日練習している友達もいました。夕練の場合でも17時までには学校を出るので、長い時間の拘束はありませんでした。 ――それだけ部活に熱心だと、学校の勉強との両立が出来るのか心配です。宿題はたくさん出るのでしょうか。 宿題はあまり出なかったので、負担に感じることはありません。ただ、夏休みに課される英語や数学のドリルが中々の量で大変でした。「最終日にやっただけでは終わらないよ。」という先生方の圧を感じました(笑)
学年の半数は東大合格レベル。 桜蔭 VS 鉄緑会!?
――「東大に一番近い女子校」として名高い桜蔭ですが、なぜこの様なレベルを維持出来るとお考えですか。 東大ということに関しては、鉄緑会の存在も勿論あると思います(笑) ――東京大学受験指導専門塾の『鉄緑会』ですね。 はい。桜蔭生=鉄緑会をイメージされる方も多いかと思いますし、実際に半数以上が通っていました。しかし、決して桜蔭が推奨しているのではありません。むしろ学校の成績が悪いのに通塾している場合は退塾を促される程です。先生方は「学校の勉強をしていたら通塾は必要ない。」という見解なのではないかと思います。 ――学校の勉強だけで合格圏内に届くのでしょうか。 私は学校の勉強だけでも合格圏内に行けると思っています。特に数学や英語は、受験で戦うレベルがしっかりと身に付きました。基礎を大事にしていることが、高い合格率を保てる一つの要因だと思います。 また、分からない箇所があったら、懇切丁寧に教えて頂けました。どんな生徒も見放すことなく、しっかりと支えてくれる安心感があったと思います。
成績は校内上位10%をキープ。 「量」より「質」重視。勉強時間の可視化
――上位10%なんて素晴らしい成績ですね。何か秘訣はありますか。 少し珍しいタイプかもしれませんが、中学では通塾せずに学校の勉強に力を入れました。一見受験に関係ない勉強をコツコツやった結果、確固たる基礎力が身に付き、大学受験で花咲いたと感じます。 ――中学では通塾しなかったのですね。高校からはどこの塾に通われていたのですか。 駿台です。駿台は宿題が無く、授業以外は完全に各自の勉強ペースに任されます。学校の勉強も頑張りたい私にとって、両立できそうな点が魅力的でした。 ――では、通塾のきっかけをお聞かせください。 きっかけは、高校生になるタイミングで志望校を本格的に考え始めたことです。将来医学部に行くならば、苦手科目である数学を強化したいと思いました。また、周りの友達の進度が早く、少し焦りを感じていたのも要因の一つです。 ――学校の勉強、部活、塾と毎日忙しかったと思いますが、どのような工夫をされていましたか? とにかく勉強の「質」に対して貪欲に生活していました。隙間時間を活用し、「休み時間が20分ならこれをやろう。もし不意に時間が空いたら、古典の単語を覚えよう。」とルーティン化することを心掛けました。 また、前日の夜に翌日のTO DOリストを作成し、実際にどれぐらいの時間勉強できたかを細かく把握しました。 シャー芯を替えたりお手洗いに行ったりするときも、タイマーを一時停止し、勉強している時間のみを記録しました。 ――とてもストイックですね。頭が下がります。それでも京大医学部現役合格を目指すことに対しての不安はありませんでしたか。 不安はありましたが、勉強時間を可視化することで、自信に繋げていきました。夜はきちんと睡眠を取っていたので、起きている時間で効率良く勉強出来ることだけを考えて生活していました。中学受験同様に早いスタートではない事は分かっていたので、「焦っても何も進まない。愚直に目の前にあることをやるしかない。」と自分に言い聞かせて勉強していました。 ――流石です!休憩時間、スマホには誘惑されなかったのですか? ネットを見てしまうことが多かったため、Googleディスカバー(興味ありそうなコンテンツをスマホがお勧めしてくれる機能)をオフにしていました。また、タイマーを動かしたら「今は勉強している時間だぞ。」と意識付けをすることで集中できたと思います。 ――意識付けが大事ということですね。勉強の「質」を高めるには集中力が必要かと思いますが、ご自身で集中力が培われたのはいつだと思いますか。 小学生の時に習っていた書道の影響は大きかったと思いますね。自分で納得できる字が書けるまで練習し続けたので、自然と集中力が身に付きました。 また、中学受験の時もクリアファイルをホワイトボードに見立てて、一日の勉強計画を立てていました。自分で作成したスケジュールだからこそ、自分を裏切りたくないと思い、集中することが出来ました。 ――中学受験がさらに大学受験に繋がっているのですね。
京大医学部に一人で乗り込む。 自分自身を試したかった孤高の桜蔭生
――それでは、京大での生活について伺います。まず、京大を選ばれた理由を教えてください。 一番は医学研究がしたかったからです。中2の時、難病について放送しているテレビ番組を見て、この世に自分が知らない病気が沢山あることに驚きました。そして、「自分もいつか難病を治せる人になりたい‼」と思い、医学部受験を決意しました。 私の勝手なイメージですが、京大は研究が盛んなイメージがありましたし、何よりも研究するに際し、視野を広げたかったので、あえて桜蔭生の少ない京大を志望しました。 それに加え、オープンキャンパスに行った事があったこと、街並みが好きなことも志望した理由の一つです。 ――念願の京大合格だったのですね。そんな京大のお友達と桜蔭のお友達との違いを教えてください。 桜蔭の友達とは穏やかで温かい時間が流れていく感じでした。一方、京大は面白い友達が多いです。また帰国子女もいるので、自分の意見をはっきりと言います。勉強より研究室等の課外活動に取り組んでいる友達もいて、とても刺激的です。 ――大学のお友達はより刺激的なのですね。大学生活において、「桜蔭の授業で培ってきたものが活きている!」と感じることはありますか? 一般教養では特に倫理が役に立っています。 一回生で教えてもらうことよりも多くの知識を学びました。 大学で深く勉強するための種をたくさん蒔いてもらった気がしますね。また、中1のとき生物が好きな科目になったことも桜蔭のおかげです。 ――以前は生物が苦手だったのですか。 はい。小学生の時、生物は暗記科目だと思っていて、あまり得意ではありませんでした。しかし、中1の理科の授業で、「物事の事象の裏にはどういうシステムが動いているのか、何が起きているのか」を丁寧に教えて下さいました。 仕組みがわかることで生物に興味が持てる様になり、今の勉強にも繋がっています。 ――ありがとうございます。では、桜蔭に入学して一番良かった事は何ですか? 『自分の言葉』を大事に出来るようになったことです。桜蔭では、文系でも理系でも高3まで国語の授業が必須です。特に現代文の授業が多く、森鴎外の『舞姫』は数か月間、丁寧に読んだ記憶があります(笑) その結果、物事を自分で考え、自分の言葉で表現する力が身に付きました。これは研究でも役に立ちます。今、私がこうして京大で勉強出来ているのは桜蔭のお陰です。 ――『自分の言葉を大事にする』なんて素敵です‼どういう人が桜蔭に合うと思いますか? 自分でコツコツ努力することが好きな人だと思います。 また、自分に自信を持てなくても、温かく受け入れて、包み込んで貰える学校です。自分なりに頑張れる子は居心地が良いのではないかと思います。 ――最後に、桜蔭を目指している小学生にエールをください。 親に言われたから...成績が良くて行けそうだから...という理由で受験する場合もあるかもしれませんが、入学すると優しい先生や友達に恵まれ、本当に温かい学校でした。 頑張った分だけ楽しさを享受出来ます‼ 勉強をしていて不安を感じる時もあるかと思います。 そんな時には、「不安は努力の裏返し‼」と言い聞かせ、最後まで自分を信じて頑張ってください!
その他細かい情報
・校則について 持ち物:桜蔭指定のもの以外は使用届が必要。 頭髪:肩についたら結ぶルール。 化粧:禁止。 携帯電話:使用届を提出し許可が必要。校内では使用禁止。使用が見つかると始末書の提出。 ・昼食について 食堂や購買部はないため、お弁当を持参する。おにぎり、パン、ジュース等は自動販売機で購入できる。 ・プール 屋内プールが完備されており、春から秋にかけて定期的に授業がある。中1から高3まであり、最終的に4泳法きちんと泳げなければいけない。テストに落ちると補習がある。 ・いじめについて 知る限りなかった。 ・不登校者について カウンセリングルームがあり、相談に乗ってくれる。とても優しい先生だった。 ・高校への進学について 他の高校に進学したい、好きな事を追求したいという理由で数名辞めた。 ・補習について 成績が一定以下だと補習がある。 ただ、補習を受ける人は極めて稀だった。 ・学校公式の成人式 生徒会主導で、毎年都内のホテルにて開催される。

インタビュアーあとがき

物腰が柔らかく、言葉を選びながら語る彼女が醸し出す雰囲気は、校訓である「勤勉・温雅・聡明」そのものでした。 キラキラと輝く瞳、優しい口調とは対照的に、瞳の奥には妥協しない芯の強さが垣間見えます。 中学受験では誰しもが耳にする『桜蔭』。 世間が評する「天才集団」とは異なり、実際は「克己心と向上心を胸に秘め、愚直に努力出来る集団」ではないでしょうか。小学生の時から自己管理能力を標準装備している彼女達にとって、桜蔭での学園生活は「鬼に金棒」に違いありません。
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