雙葉中学校の卒業生に学校のリアルをインタビュー

「徳においては純真に 義務においては堅実に」素直に、真面目に、やるべきことはきっちりとする女子御三家「お嬢様学校」の内情

インタビュー日:2024年1月19日

卒業生経歴

雙葉中学・高等学校 → 早稲田大学卒業 → 早稲田大学大学院所属
今回は、雙葉中学校から雙葉高等学校に進み、おしとやかな校風からは想像できない「鉛筆ロケット」を作るなどの知的好奇心溢れる「班」活動を経て、早稲田大学に合格し、現在早稲田大学大学院に在籍しているAさんにインタビューしました。 「空き缶を拾ってゴミ箱に捨てる」学校で身につけた勉強習慣によって早稲田大学を首席で卒業した彼女を支えた個性的な先生方や、生徒へのアンケートを取ってその結果を展示した雙葉祭など、知られざるお嬢様学校での生活についてお伝えします。
「空き缶を拾ってゴミ箱に捨てる」おしとやかな校風
――まず、雙葉中学校・高等学校を選ばれた理由を教えてください。 私は家がカトリックだったからですね。実は、小学校時代から活発な子どもだったので女子学院と迷っていました。雙葉はお嬢様学校と聞いていたので、がさつな自分に合うのだろうか?と思っていましたね。最終的にはプロテスタントの学校よりは、同じ宗派の学校の方がいいと思って選びました。 ――女子学院は雙葉と合わせて「女子御三家」ですね。桜蔭もその中に入っていますが、それぞれ学生の性質が違うのでしょうか? そうですね、女子御三家に入る学生の性質を表すのに、「空き缶が落ちていたときの行動」で例えたエピソードがあります。桜蔭の人は真面目だから、空き缶が落ちていても気づかず勉強をしている。雙葉生は空き缶を拾ってゴミ箱に捨てる。女子学院は缶蹴りを始める……という感じですね。 雙葉生が一番普通に思えますが、実際は変わった子が多かったです(笑)。おしとやかなイメージがありますが、校内では賑やかで、外向けには猫の皮を被っている、といった感じでしょうか。多様性が認められる場所で、最低限の倫理観がある生徒なら誰でもウェルカムないい学校でしたね。私にはすごく雙葉の環境は合っていたと思います。 ――そんな信長・秀吉・家康のホトトギスに対する例えみたいなものがあるんですね!(笑)その雙葉中のことを掘り下げていく質問をしていきたいと思うのですが、付属の雙葉小学校からの進学者も多いようですが、雙葉小学校出身者と、中学から雙葉に入ってきた生徒たちはすぐに仲良くなりましたか?またすぐに仲良くなれるような学校側の工夫はありましたか? 「内部生」「外部生」という表現は最初の方は言いましたね。両者半々くらいなのですが、分離されている感じはありませんでした。中学に入ってすぐにオリエンテーションで遠足的なものに行った気がしますが、そこで親睦を深めて仲良くなった記憶があります。 あと、雙葉では部活が強制参加なので、そこで内部・外部の垣根が取っ払われてみんな割と仲良くなりますね。 それから、中高の6年間で毎年クラス替えがあり、その度に友人が増えるので、いつの間にか内部・外部の区別は全く気にならなくなっていました。 ――なるほど、いろんな属性の人を受け入れる環境・風土やそのための仕組みがあるのですね。先ほど「部活が強制参加だった」という話が出ましたが、Aさんの経験含め、詳しくお聞かせいただいても大丈夫ですか? 実は雙葉は帰宅部がないんです。みんな何かしらの部活に所属していて、「〜部」、「〜同好会」、「〜班」とそれぞれ呼び方が活動日数によって分かれてる感じですね。一番活動頻度が多いのが部で、少ないのが班です。私も土曜だけの活動だった「化学班」に入っていて、いろいろ実験をしたり、そのグループごとの実験結果を文化祭で発表していました。 ――名称が活動頻度で変わるのは新鮮です!ちなみにどんな実験をされていたのですか? 「鉛筆ロケット」を作っていました。金属製の鉛筆のキャップに火薬を詰め、火をつけたらロケットになる、というものです。わからないところをネットで調べて、楽しんで作っていました。危ないから先生も心配していたのですが……(笑)。テルミット反応や炎色反応などの実験もしていました。とにかく色々なものを燃やしていました。 ――なかなか知的好奇心に基づいた遊びですね(笑)。土曜だけの活動だったとはおっしゃってましたが、高校まで続けたんですか? 中学1年生から高校2年生まで5年間ずっと所属していましたね。高校2年生の文化祭のタイミングで表向きは引退ということになりますが、なんだかんだ毎週行っていました(笑)。ちなみにゆるい部活だったので、幽霊部員もいましたよ。受験ガチ勢の方は部活をサボって、勉強を優先していましたが、私は入っててよかったなと思いました。
カトリックの「人類愛」を、現代の社会問題と絡めて考える
――なるほど、ありがとうございます。それでは次の質問です。上皇后美智子様が雙葉小出身のこともあり、雙葉にはお嬢様学校のイメージがありますが、そうした「お嬢様」を感じさせるようなエピソードはありますか。 そうですね。実際に家柄がいい生徒が多いなと感じました。有名企業の社長の娘さん、弁護士さん・お医者さん・官僚のお家も多かったと記憶しています。もっとも、在校中は知らなかったのですが、卒業してからあの子の家はこうだったと聞いて、びっくりすることばかりでしたね。私は一般家庭の出身だったので。 でも、今思えば家柄は良くてもそれをひけらかす人がいなかったのが良かったです。そうしたところで相手はもっといい家庭かもしれないし、上には上がいるということを、みんな分かっているのだと思います。 ――人間的なバランスが優れているのですね。自分が若いころなど、何も考えずに自慢ばかりしている人間だったので感服をしました。ちなみに貴学はカトリック校で、宗教の授業を大切にしているようにも感じますが、宗教の授業や関連の行事などを通して、今の自分の考え方に影響を与えたことはありますか? あることはあるのですが、ひたすらカトリックの教義を教える感じではないんですね。道徳の授業に近いのかなと思います。たとえば、ドキュメンタリーを見て社会問題を考えてみようという授業がありましたが、この授業の根底には、カトリックの「人類愛」があるのだと思います。 ですが、カトリックでない生徒も共感できるように身近なことが扱われているのがポイントですね。実際、この授業をきっかけに社会問題に関心を持つ人も多いです。教義に重きを置いているからこそ、無理にキリスト教的な価値観を押し付けることなく、現代社会と関連づけて興味を持たせる事が大事だと考えているのだと思います――なるほど、現代とのバランスで考えているのですね。ありがとうございます!ちなみに、雙葉は伝統校ということもあり「雙葉生らしさ」を生徒に自覚させる教育をしていると感じるのですが、Aさんが思う雙葉生らしさとはどのようなものですか。またそれを意識した・身についたイベントや、出来事などがあればお聞きしたいです。 本当にいろんな生徒がいるので、難しいですね(笑)。ただ、印象的だったのは、相手の良いところを見つけるのが得意な生徒が多く、お互いにすごく褒め合い、素直に認め合う子が多かったことですかね。多様性に寛容で、それぞれに個性があってもちゃんと否定せずに受け入れられるというのは雙葉生らしいかもしれません。 それから、「徳においては純真に 義務においては堅実に」という校訓があるのですが、素直に、真面目に、やるべきことはちゃんとやるという空気はあった気がしています。私も学校に愛着がありますし、きっとみんな、ぼんやりした愛校心を持っていたと思います。
中1から東大を目指す子もいるが、学校は成績順を出さずにのんびり過ごさせる
――ありがとうございます。ここからは勉強面に関して質問を伺っていければと思います。まず、Aさんの在学時の成績について教えていただいても構いませんか。 実は、雙葉は成績順を出さない学校なんです。だから私は、自分の正確な順位を知らないまま卒業しました。成績にこだわらず、のんびり過ごす牧歌的な環境でしたね。ただ、とはいっても30~40人いるクラスの子達とはなんとなくテストの点数を見せ合うことはありました。そのとき、他の人と比較してもそこそこ良かった方なので170~180人いる学年の中の比較的上位にいたのではないかな?と思います。トップ10にいた自信はないですね。 ――ありがとうございます。成績優秀だったのですね。素晴らしいです!ちなみに雙葉中・高の通塾率はどれくらいか覚えておられますか? 中学のうちは半々くらいですが、高校になってからほぼ100%通うようになったと思います。私の周囲には、中1から鉄緑会に通って東大を目指している子もけっこういましたね。雙葉はあまり受験指導をする学校ではなく、みんなが自分の意思で勝手に塾に行っているイメージです。 ――そうなのですね!ちなみに、Aさんは塾に通われていましたか?通われていたらいつごろからか、またその動機について教えていただければ嬉しいです! 私は高校に入ってから通い始めました。動機は、周囲の子が行きはじめているから自分も行った方がいいかな……?という感じです。受験の情報は塾に行かないと集められないし、対策も塾でやるものだという考えも私が在校していた当時はまだ根強かったので、2か所の予備校に通っていました。 ――雙葉中・高は東大合格者数がほぼ毎年2桁というように、高い合格実績を誇っているので、学校指導などにもその秘訣があると思っているのですが、何か思い当たることはありますか? 私が思うに、生徒の質が高いことかなと思います。先ほど校訓のくだりでお伝えしたように、「やるべきことはやりなさいよ」という学校の雰囲気があります。だから生徒もコツコツ真面目に勉強しますが、そうすることが当たり前の環境にしてくれているのは先生方のおかげだと思いますね。 ――学校側のフォロー体制も万全なのですね。その中でも、高校に上がらなかったり、進級できなかったりするケースもあるのでしょうか? 基本的にはみんな高校に上がっていますね。体調が悪くて学校に来れず、出席日数が足りなくなって留年する場合はありますが、成績不良で進級できないのは聞いたことはありません。学校側も補習や課題を出させて、上がっても問題ないと判断して上げる場合が多いと思います。あとは例外的なケースですが、数年に一回、公立高校に行きたいっていう人や宝塚歌劇団を受けたいっていう人がいて、雙葉を途中で辞める子はいましたね――宝塚歌劇団ですか!私も宝塚を何度か見たことがあるのですが、「清く 正しく 美しく」を校訓に掲げる場所なので、雙葉とイメージが近い気がします(笑)。ちなみに雙葉中・高には不登校者へのフォロー体制はあるのでしょうか。 画一的な感じではなく、個別具体的なケースに柔軟に対応する感じだと思います。私は出席日数が足りなくて、一学年下がった子を知っているのですが、それは例外で、よほど出席日数が少ない場合以外は、基本的には100人中、100人上がるようになっていると思います。 ――ありがとうございます。実は学校でも成績優秀だったAさんに個人的に聞きたいことがあります(笑)。事前にお聞きしていた噂によると、早稲田首席で、さらに飛び級で大学院に入学されたということですが、大学以降そんなに勉強を頑張られたきっかけはなんだったのでしょうか。もし雙葉時代の教育と関係があれば、教えてください。 恐縮です……(笑)。真面目にコツコツ勉強する習慣が中高時代に身についたのが大きいと思います。毎回授業に出て、レポートが課されたら提出をして、テスト範囲はスケジュールが厳しくてもしっかりすべて勉強する。中高時代、そういう当たり前のことを当たり前にやる習慣がついたので、大学に入ってからも同じようなことをやっていたら、なんとかいい成績を取れました。先ほどもお話しましたが、「やるべきことはちゃんとやろうね」っていうのが当たり前の環境にいたというのが大きいですね。
フランス語コース・英語コースを選択できるカリキュラム
――なるほど、ありがとうございます!ここからは学校の授業内容についてご質問させていただいます。課題はどれくらいの量が出されたのか、どれくらいの頻度で課題を提出させられたかは覚えておられますか? 英語で言えば、週2~3回くらい宿題が出されていましたね。英語は毎日何かしら授業がありました。英語文法、読解、話す授業とそれぞれ授業の課題が課されていたので、大変だった記憶があります。さらに、授業も事前に予習をしてきた前提で答えあわせが進んでいたので、しっかり対訳ノートを作って、先生に当てられても答えられるような状態を作っておかなければなりませんでした。ただ、科目によってその頻度も違って、古文だと週1回くらい、対訳ノートを作って持っていけばよかったですね。 ――楽しようとしてもできないのはなかなか大変ですね。英語でたくさん課題が出たとのことですが、英語以外の言語を学ぶ機会もあるみたいですね。中3ではフランス語の授業が必修のようですが、どの程度のレベルまで習得するのですか?また、フランス語を学んでよかったと思いますか? 必修で全員が習うときはベーシックなことを学んだ記憶があります。挨拶や自己紹介、簡単な文章を読むといったレベルなので、受験で使うのは難しいかなと思います。ただし、もっと勉強したい人は選択でフランス語のクラスに入れます。フランス語コース、英語コースと分かれるので、受験で使える本格的なところまで勉強する生徒もいますね。私自身は必修で終わったのですが、基本的なフランス語の読み方がわかったので、学んで良かったなと思いますね。
「生徒会」がなく、「生徒会長」的存在が複数人いる学校の仕組み
――ありがとうございます。続いて、学校⽣活についてお聞きしたいと思います。修学旅⾏、⽂化祭、体育祭含めて、⼀番記憶に残っている楽しかった⾏事があれば教えてください! 全部楽しかったです(笑)!雙葉祭(文化祭)は特に面白かったですね。私はホームルーム委員会に所属していて、この委員会では毎年学校紹介の展示をやっていたのですが、その準備が面白かったです。雙葉の沿革のまとめや制服・行事の案内といったオフィシャルな内容をベースラインとして、通学時間や好きな科目など、全校生徒にアンケートをとって、生徒目線でおもしろ情報などを入れて発表できたのがとても面白かったです。 ――それはとても楽しそうですね!ホームルーム委員会というのも……何か独特の役割ですね(笑)。 雙葉は「生徒会」の執行部が変わっているんです(笑)。学園ドラマでよくみかける「生徒会」と呼ばれるものがないんです。 他校との交渉は基本的に「総務」が行い、これが他校の生徒会にあたる組織だと思うのですが、「総務」は複数人からなる組織で、だれがトップなのか明確ではなく、いわゆる「生徒会長」という役職も正式にはありません。他にも中学高校6学年の各クラスの代表者から構成される「ホームルーム委員会」もあります。私はここに所属していました。これもある種の生徒会的なポジションなので、ホームルーム委員会の委員長も生徒会長のような存在です。他校でいえば「生徒会長」にあたる人が複数人いる謎の仕組みです(笑)。このほかにも、雙葉祭実行委員会、体育委員会、ボランティア委員会、クラブ代表者委員会などがあります。 制度の趣旨としては、他校では生徒会が一手に引き受けている役割を、雙葉では「総務」や複数の委員会に分散して、より多くの生徒が主体的に学校の運営に携われるようにという目的もあるのではないかと思います。が、ずいぶん昔に作られた制度のようなので、詳しい成立の経緯はわかりません(笑)。 ――それは面白いですね!ちなみに先生方のサポートがとても充実している学校だと先ほどお聞きしていて思いましたが、もしAさんが記憶に残っている先⽣とのエピソードがあれば、教えていただけますか? 面白い先生がたくさんいらっしゃったので、たくさんありますね(笑)。生徒も個性的でしたが、先生方もそうでした。ものすごく仏像が好きな日本史の先生、早口で講談師みたいな国語の先生など、いろんな方がいらっしゃいましたね。個人的に私がとても好きだったのが、世界史の授業でした。黒板に世界地図をバーっと書く先生がいらっしゃって、授業もとても面白かったです。 ――素敵ですね。最後の質問になりました。Aさんは、この学校に⼊学してよかったと思うか そうですね、入学して良かったと思います。雙葉の多様性を重んじる環境はとても自分に合っていましたし、学校生活もすごく楽しかったです!
その他細かい情報
・校則について 染髪する子はほぼいない。スカートの丈が短いことを注意されることはよくあったが、生活指導がとても厳しいわけではなく、反省文を書かせるようなことはなかった。上履きはみんな指定のものを履かなければいけないが、私は夏場は暑いからビーチサンダルを履くこともあった(やんわりと注意はされたが、走って逃げたり、「水虫だ」と主張してごまかしたりした。なお、実際は水虫ではなかった)。 上履きの靴紐は学年ごとに色が決められており、校内で生徒同士がすれ違う際は真っ先に靴紐の色を見る。毎年4月、学年が上がるタイミングで靴紐を変えるため、憧れの先輩から使わなくなった前年度分の靴紐をもらう後輩もいる。 携帯電話に関しては、学校に届け出れば所持を認められており、授業中に使用しなければ問題ない。 ・学⾷について 基本的には弁当なので、いわゆる学食はない。その代わり、菓子パンやお惣菜パンを誰でも買える購買部がある。その隣では文房具が売ってあり、学校名物の面白いおじちゃんがいた。女子校だから部外者をあまり校舎に入れないようにしているため、スタッフが何十年も同じ人であるようだ。 ・プールの授業について 校舎が狭いため、なし。 ・いじめはあったか。いじめ防⽌策は何かやっているか。 自分の周りではいじめはなかったし、学校全体でもあまりないのではないか。クラスで孤立する要素を持っている子でも、気の合う友達は見つかる空気であり、先生方も生徒のことをよく見ているから、いじめの兆候などは鋭く察知してそうな気配はあった。

インタビュアーあとがき

・Aさんを大学で首席に導いたのは、学校で身につけた当たり前のことを当たり前にやる姿勢の賜物だと思いました。環境が変わっても習慣を維持することは難しいものだと思いますが、Aさんが中高で学んだ、カトリックの教えを現代の問題に当てはめて考える姿勢と、「徳においては純真に 義務においては堅実に」という校訓が現在の彼女を形作っているのだと、改めて感じることができました。
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