開成中学校の卒業生に学校のリアルをインタビュー

“東大合格者数 不動の「ナンバー1」” 好きなことに没頭し、自分らしさを発揮できる学園生活。

聞き手:
インタビュー日:2024年2月10日
記事作成協力:カナエ塾(塾HPへ)

卒業生経歴

開成中学校 → 開成高等学校 → 東京大学文Ⅲ2年(インタビュー時)
今回は、東大合格者数ナンバー1を更新中である開成学園出身のAさんにインタビューをしました。 Aさんは、部活動に力を入れた結果、気付けばクラス最下位に。ここからコツコツと努力を積み重ね、現役東大合格を果たしました。 何がAさんを東大合格まで導いたのか…そして、それを支えた開成の文化を紐解いていきましょう。
度肝を抜かれた運動会
――まず、中学受験をしようと思ったきっかけを教えて下さい。 4つ上の姉が塾に通っているのをみて、羨ましく思い、「僕も塾に通いたい」と親にお願いしたのがきっかけです(笑) 小1からSAPIXに通塾しましたが、勉強に行くという感覚はあまりなく、知的好奇心をくすぐられる遊びの延長でした。また、先生との雑談も楽しく、通塾のモチベーションに繋がりました。 ――遊び感覚で通塾していたのですね。続いて、開成学園を選んだ理由をお聞かせください。 幼い頃、日本で一番頭の良い大学が東大であることを知り、漠然とした憧れを持っていました。東大に行くためには合格者数の多い高校に行けばいいと思うようになり、開成に興味を持ち始めました。 開成への憧れが決定的になったのは、家族と一緒に見に行った運動会です。想像以上に激しい肉弾戦と颯爽とした生徒たちの姿に魅了され、「見るだけじゃなくて、僕もやってみたい!開成に入りたい‼」と、心から志すようになりました。
母の日に受け継がれる「開成魂」。風物詩の坊主
――運動会を見学し、開成への憧れが強くなったのですね。運動会の練習で印象に残っていることはありますか。 高3の先輩から直接指導されたことは印象的です。 運動会は毎年母の日に開催されます。中1から高3を縦割りにした8組で競い合い、高3は指導学年として各学年を指導します。先輩方の堂々とキラキラ輝く姿があまりにも大人で格好良かったです。 ――直接指導される機会は貴重ですね。指導は厳しいのでしょうか。 いいえ。僕たちの年代は優しく教えてもらえました。一時期は厳しく指導していたこともあったようですが、今はこの指導体制を伝統として次の世代に残すイメージだと思います。 驚いたことは、先輩たちとのやりとりでの返事が「はい。」ではなく「おう‼」なことですかね(笑) ――かっこいい応答ですね。では、指導学年になった高3の時はどのように感じましたか。 僕は高3の時、高2の指導を担当しました。当日は、後輩がしっかり出来るのかをやきもきしながら観戦していました(笑)上手に出来た時は自分のことのように嬉しかったです。 ついに最終学年になったのか…と感慨深いものがありましたね。 ――学年により様々な思いがよぎる運動会ですね。高3の運動会で優勝出来なかった組は、坊主にすると聞いたことがありますが、どれぐらいの生徒が坊主にするのでしょうか。 3分の2ぐらいだと思います。「負けたのが悔しいから坊主にする」というよりは、「ここからは受験を楽しむぞ‼」という意気込みの表れでした。また、これから先なかなか坊主になる機会もないと思うので、負けたことを大義名分にして坊主にする人もいます(笑)
初代校長である高橋是清先生の教育理念が垣間見える入試問題
――ありがとうございます。それでは、もう少し中学受験について伺います。Aさんが通われていたSAPIXは、塾での授業当日に初めてその日の単元のテキストが配られます。授業後にそのテキストを家庭で復習することが柱になっているため「復習型」の勉強法の塾と言われていますが、どのように勉強されていましたか。 復習や解き直しが大事だと分かっていましたが、自ら率先して勉強が出来なかったので、親から「宿題やったの?」と声掛けされて、一人で机に向かう感じでしたね。分からない箇所は質問教室で先生に確認しました。復習を大事にするというよりは授業の受け方を工夫しました。 ――どのような工夫をされていたのですか。 ただ単に座って聞いているのではなく、「どうして」や「なぜ」を大切にしながら受講していました。そうすると、内容が頭に入りやすく、復習の負担が減ったかと思います。 ――工夫して授業を受けられていて凄いですね。開成中の入試問題は思考力や情報処理能力を問われる最難関レベルと言われています。私も2023年の入試問題を解いてみました。算数はルールの本質を見極めないと解けない問題が多数ありました。高橋是清先生の「思考力を重視する」教育理念を反映している問題だと感じましたが、振り返ってみて、どうすれば得点に繋がると思いますか。 そうですね。まずは、どのジャンル(つるかめ算など)の問題なのかを見極めて解くことが大事だと思います。それでも分からない時はある程度捨てて、次の問題に挑戦しました。 ――問題の見極めが大事ということですね。一方、国語では、小6の男児が読み取るには難しいであろう、女子高生の揺れ動く繊細な心理が描かれていました。どのような対策をしていましたか。 国語は得意だったので、特に対策はしていませんでした。 ――なぜ得意だったのでしょうか。 父が読書好きで、僕も物心付いた時から本を読む習慣があったからだと思います。そのおかげで、沢山の本を読み進めていくうちに、文章の型や展開には共通点があることがわかりました。それらを問題に当てはめてみると一段と解きやすくなりました。 ――では、中学受験を振り返り、何をしたら役に立つと思いますか。 国語を得意にするには、読書が必要だと思います。 それぞれの登場人物の立場を考慮することや、「作者が何を伝えたいのか」に耳を傾けながら読み進めることは、直ぐに身に付けられないので様々な分野の本を読むことをお勧めします。 また、理科や社会では「なぜ?」を大切にすることが大事です。大人になると常識に対して疑問は生じにくいですが、小学生の頃は全てが疑問になる時期があると思います。 その疑問をそのままにせず、本で調べたり、親と会話したりしてみてください。そうすることで好奇心が更に刺激されます。何気ない日常でも受験に役立つことがある筈です。 ――ありがとうございます!!それでは、開成学園での学校生活について詳しく教えてください。
「自主」「自律」の風土。自由闊達な学園生活
――開成は毎年「学校生活についての満足度」を調査していて、99%の生徒が学校生活を楽しいと答えたそうですが、本当でしょうか。 本当だと思います。僕も6年間めちゃくちゃ楽しかったです‼個性が尊重される自由な雰囲気が広がっていて居心地が良く、基本的に校則に縛られる窮屈さを感じません。 みなが自分のやりたいことを追求している感じです。 ――居心地が良いのはなぜだと思われますか。 居場所の選択肢が多いからだと思います。運動部・文化部や同好会の種類が豊富ですし、自分で同好会を作ることも出来ます。 また、ほとんどの行事が生徒主体で行われます。運動会は終わった直後から次年度の準備が始まりますし、修学旅行では行き先を生徒自身で決めます。自分の居たい場所で深い繋がりを築くことが出来るから、学校が本当に楽しいのです。
底まで落ちた成績。離脱した鉄緑会
――楽しそうな学園生活がこちらにも伝わってきます!!では、Aさんは何の部活に入っていましたか? 中学では軟式野球部、高校では硬式野球部に所属していました。 ――どのくらいの練習頻度でしたか。 軟式野球部は朝練と放課後練習が週2回、土日は練習試合があったので、週4・5回の練習がありました。 一方、硬式野球部は公式な練習はグラウンドと朝練が各1日だけですが、月~金まで毎日、自主練として朝練と放課後練がありました。グラウンドを使えない日は、ティーバッティングや素振り、ウエイトトレーニングの練習をし、土日は練習試合がありました。 ――かなりハードな練習ですね。いつまで部活があるのでしょうか。 この練習体制が高3の夏の大会で「負けるまで」続きました。 引退が遅いのは分かっていたので、それを加味して勉強の速度も考えました。他の部活は高2の夏から高3の春で引退するのが普通だったと思います。 ――部活動が忙しいと学校の勉強は大変ではありませんでしたか。 正直、大変でした。 今でも鮮明に覚えていますが、中1の総合成績でクラス最下位になり、学年でも300人中270位になりました。あまり勉強していなかったので当然かもしれません。 ――そのような場合、補講はあるのでしょうか。 ありました。補講者は黒板に出席番号が張り出されます。 毎回20~30人ぐらいだったと思います。扱った範囲を復習してから、問題プリントが配られて、全問正解するまで帰れませんでした。ヒントを一切出してもらえず、結構きつかったです(笑)これが中3まで続きました。数学以外の補講は聞いたことがないので、数学だけだと思います。 ――どの学年でも数学の補講があったのでしょうか。 恐らく学年によって違うと思います。僕たちの学年は、数学に力を入れる先生が揃っていたので補講が行われていました。数学が苦手な僕にとっては大変有難い補講でした。 ――その他に、印象に残っている先生のエピソードはありますか? 古文のK先生が印象に残っています。 「大切なのは、どこの大学に通うかではなく、個々人の学ぶ姿勢である。」「挨拶や礼儀に気を付けなさい。」等、授業中の小話に深みがありました。 また、授業に遅く来て、早く帰るのも面白かったです(笑) ――それは興味深いお話ですね。私もK先生の授業を受けてみたくなりました。学校の勉強だけでも大変そうですが、塾での勉強はどうしていたのですか。 中1の春から鉄緑会に通っていましたが、夏前には数学をやめました。ただし、鉄緑会は一度やめると指定校でも入塾試験が必要になるので、英語だけは何とか続けました
「百傑」=現役東大合格。東大受験への不安を払拭してくれた先輩方の功績
――現役で東大に合格されたということは、ここからかなり挽回されたと思います。どのような道のりを辿ったのでしょうか。 中2の時に「いくら何でも最下位はまずい…」と焦り、勉強に力を入れるようになりました。しかし、部活が忙しいので直ぐに勉強量を増やすことは出来ず、初めは英単語の暗記等のインプットに力を入れました。そして、中2から中3の間は分からない箇所があれば直ぐに質問できる自習室のような塾に通いました。相対的に勉強量を増やし、定期考査の順位を上げることを目標としました。 学年が上がる毎に徐々に成績が上がり高1の定期考査ではクラスの半分の25位を取ることが出来ました。さらに、高2後半から高3での実力テストは、良い時で学年50位ぐらい、悪い時でも学年90位ぐらいで100位以内には入るようになりました。 ――着実に順位をあげていますね!部活動で忙しい中、どのようにして勉強の効率を上げていましたか。 集中力を途切れさせないような環境作りに尽力しました。 いつもスマホを自宅に置いて外出し、見ないように心掛けました。今の時代、誘惑が多いので、いかに断ち切るかが大事かと思います。 ――勉強の効率を上げるには、集中できる環境を自分でつくることが大事なのですね。開成は現在、東大合格者数ナンバー1の記録を更新中ですが、その秘訣はどこにあると思われますか。 一端には、鉄緑会の存在があると思います(笑)僕も本腰を入れて受験勉強するために、高1の後半から鉄緑会の数学を再開しました。部活や委員会活動などをしていると勉強時間が無限にある訳ではありません。限られた時間の中で効率よく勉強が出来る一因には塾の存在があると思います。 しかし、何より僕を東大合格に導いてくれたのは、「百傑」の存在です。 ――「百傑」とは何ですか? 「百傑」とは、高1から行われる実力テストの上位100名のことです。開成では毎年、約120名の先輩が東大に現役合格しています。だから「百傑」に入れば、合格も現実味を帯びてきます。 また、毎日のように一緒に汗を流していた先輩方が、引退してから猛勉強し、東大に合格していく姿を実際に見たことも大きかったです。 「百傑に入っていれば受かるのではないか」「先輩方が出来たなら自分たちも出来るのではないか」という漠然とした自信は、受験に対する不安をかき消してくれて、何事にも代え難いパワーをくれました。
東大合格者数にこだわらない。海外大への挑戦を後押し
――先輩方の功績から現役東大合格の自信に繋がるのは、開成ならではですね。それでは近年、海外の大学への進学者数が増えていますが、どうしてだと思われますか。 そうですね。僕の友達で海外大に進学した人は、2人思い浮かびます。ただ、2人とも元々インターナショナルスクールに通っていました。やはり、何かしらのきっかけがあるのかなと思います。また、先輩方から海外大での生活や勉強等の様々な情報を共有してもらえることも要因の一つだと思います。 東大合格者数が多いため、「開成は東大受験を推奨している」と思われる方もいるかと思いますが、実際はむしろ海外大への進学を勧めている印象です。
「新高」に掻き立てられる闘争心 
――御三家で唯一の高校受験組を受け入れる開成。中学からの内部進学組を「旧高」、高校からの受験組を「新高」と呼ぶそうですが、旧高と新高との間に壁はないのでしょうか。 差があるとしたら、男子校に3年間染まっていたか、いなかったかぐらいです(笑)高1は旧高と新高とでクラスが分かれていますが、高2からは一緒になりますし、運動会などの行事を通して想像以上に仲良くなれました。また、新高は高校受験をしているので、勉強に対するモチベーションが高く、刺激をもらえます。影響力は大きいですね。
煌めく才のるつぼ。尖った個性を伸ばす
――ありがとうございます。それでは、どのような人が開成に合うのか教えてください。 そうですね。「合う・合わないが無い」のが開成だと思います。 どんな人にも居場所があり、決して否定されることがない寛容な学校です。運動の出来る人、勉強の出来る人、面白い人、英語が得意な人、歴史に詳しい人、数学オリンピックで金メダルを受賞する人など、様々な分野に秀でた個性的な生徒が多いので、自分の想像を遥かに超えてくる刺激的な空間でした。 ――ありがとうございます。最後に、開成を目指している小学生にエールをください。 僕にとって中学受験は成長できる機会でした。 「本気で何かに取り組むことができる時期」は非常に貴重だと、20歳になった今、感じます。苦しい瞬間もあるかと思いますが、その先にはきっと新しい未来が見えるはずです。
その他細かい情報
・食堂について 平日は高校生のみ利用可能だが、土曜日は中学生も使える。 おすすめメニューはbランチ(ラーメン+丼)。 クオリティは「安い、早い、普通」という感じ。 ・購買部について パンを売っている。 ・プールについて 校内施設にプールがないため、通常授業では行われない。 中1の時に、宿泊学習で水泳学校が実施される。 ・いじめについて どの学校にもあるいざこざはあったが、いじめは知る限りなかった。 ・不登校者について 自分の知る範囲ではいなかったため、分からない。 ・高校への進学について 上がれない人はいなかった。 ・携帯の使用について 学年ごとのルールによる。 中学1、2年の時は一応禁止されていた。 ・宿題について 量が多い宿題は特に無かった。 ただし、数学に関しては定期考査毎にノートの提出があり、成績に加味された。 ・通塾率 中学:6~7割、高校:約9割 ・学校公式の成人式 3月に20歳の集いがある。

インタビュアーあとがき

中高合わせ約2100名という御三家の中で圧倒的な生徒数を誇る開成。 一歩間違えれば『井の中の蛙』になりかねない思春期の男子たちが、数多くの同級生や先輩後輩と一緒に時を過ごす開成という『大海』に飛び込むことで、多様性の理解やコミュニケーション能力を磨き上げることができる。 そして、自分の好きな空間で自由に没頭し、最高学年では百傑の存在が東大現役合格へ導いてくれる。これこそが開成学園の醍醐味に違いありません。
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